【野球人生を振り返って】吉本匠満
14人目は吉本匠満(内野手・清水東)です!

僕にとって野球とは単なるスポーツではなく、「人間性」という言葉がぴったりだと思います。振り返れば、小学時代に父の影響でバットを握ったあの日から常に野球と共に歩んできたと実感しています。勝利の喜び、悔しさに打ちひしがれた日だけでなく、それまでの過程や様々な経験が今の自分を作っていると感じています。
小学時代、私は父の勧めで野球を始めました。当時はルールもままならない程度でしたが白球を追いかけることがただただ楽しかったです。そんな中で、試合に出場したいという強い気持ちも芽生えてきました。父に夜遅くまでスイングを見てもらったり、バッティングセンターにも連れて行ってもらいました。今の自分の打撃があるのは、父の指導あってこそだと痛感しています。この頃から、初めて努力の先の達成感を味わうことができました。
中学に進学し、僕は硬式クラブチームに所属しました。入部当時のチームは、全国ベスト4に勝ち進むくらいの強豪であり、練習量も質も小学校とは桁違いで、肉体的にも精神的にも試される日々が続きました。そんな中、当初の指導者から言われたのは、「諦めのわるさを持て」ということでした。自分が苦しい状況に置かれても取り組み続ける姿勢は、自分の人間性そのものが試されているのだと気づかされました。今置かれている状況から目を背け、逃げ出す言い訳を探すのではなく、どう乗り越えていくのか、どうやって改善するのかということ考える習慣ができたのは中学野球時代の指導があったからこそだと思います。

高校では、ありがたいことにチームの主力として試合に出場させていただく機会が多かったです。高校の指導者から口酸っぱく言われてきた事は「人間性」ということです。どんなに結果を残してきても「人間性」、試合で結果が出なければ「やっぱり人間性」と言われ続けてきました。当初は、なにくそと思う日々が続いていましたが、今思うと事の重大さに気づけなかった自分が恥ずかしいと思うばかりです。「他人の指摘に耳を向ける素直さ」、「結果を受け入れる強さ」、「敗北から学び取る姿勢」、「他人にも気配りできる心の余裕」挙げだしたらキリがないほど多くのことを学ばせてもらいました。野球人である前に、一人の人間として立派になってほしいという思いを今更ながら感じ取っています。

大学では、東京六大学野球という大きな舞台で再び白球を追うことになりました。そこには全国各地から集まった猛者たちがいて、高校までの自分の成功体験はまったく通用しないと痛感しました。守備の一歩、スイングの速さ、試合中の判断力、すべてにおいて周囲はレベルが高く、最初はただついていくだけで精一杯でした。しかし、この環境こそが自分をさらに成長させてくれると信じ、ひとつひとつ課題を潰していく日々を過ごしました。大学野球で身をもって知ったのは、「諦めないこと」の本当の意味です。中学時代にも指導者から「諦めのわるさを持て」と言われてきましたが、大学での経験はその言葉の重みをさらに深く教えてくれました。思い通りにいかない状況に直面しても、気持ちを切らさず前を向く。下を向いている暇はない。その積み重ねこそが、自分を支える力になっていくのだと学びました。
そんな思いも空しく、オータムフレッシュでの打席が大学野球人生での最初で最後の公式戦出場となってしまいました。最後に野球で結果を残すということは叶いませんでしたが、これまでの野球人生はこれからの人生の財産であることは間違いないと確信できます。

野球を通して学んだ「人間性」とは、単に礼儀正しくすることや規律を守ることだけではありません。仲間のために汗を流し、相手を尊重し、困難に直面しても逃げずに立ち向かう力。時に自分の意見を押し通すのではなく、相手の考えを受け入れ、共により良い方向を模索する姿勢。そして、勝っても負けても最後に握手を交わす清々しさ。これらは、グラウンドという限られた空間の中で培われましたが、きっと社会に出ても通用する普遍的な価値だと信じています。「人間性」を教えてくれたのは、間違いなく野球であり、これまでの野球人生で出会ったすべての人たちです。だからこそ、僕はこれからもその精神を胸に、次のフィールドでも全力を尽くしていきたいと思います。