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『僕の野球人生』第2回 奥野雄介投手

『僕の野球人生』第2回
奥野 雄介 投手 (4年/開成)

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東大野球部との出会いは高校1年生の頃でした。神宮の2階席から試合を観たことを覚えています。名の知れた選手が揃う早稲田を相手に接戦を演じる東大野球部の姿に心を打たれ、そこから東大野球部に入りたいと志すようになりました。地方大会の1回戦も勝てないチームで、絶対的な存在にもなれない自分の現状に悶々としながら、いつかは東大野球部に入って甲子園のスターたちを倒す、そんな淡い期待を抱いていたのでした。

高校最後の大会も初戦で敗退し、そのまま野球を辞められるはずがなく、迷わず東大野球部を目指しました。その秋の東大の躍進にも勇気をもらいながら受験勉強に励み、合格することができました。長らく憧れていた六大学野球への挑戦権を得ることができ、喜びでいっぱいでした。しかし、待ち受けていたのは輝かしい未来ではなく、苦々しい現実でした。1年秋からリーグ戦で投げる機会をいただいたものの、4試合に登板して防御率は23.41と惨憺たるものでした。初めて味わう挫折に、夜も眠れない日が続きました。屈辱的な経験を胸に、その年のオフシーズンは本気で野球に向き合いました。そうして迎えた2年生の春は自分自身の確かな成長を感じましたが、立ちはだかる六大学の壁は高く、またも跳ね返されてしまいました。

またこの頃から、結果を出せない自分自身に対するプレッシャーだけでなく、もう1つの大きな重圧を感じるようになっていました。それは連敗というものです。六大学の中で大きな実力差を抱える東大にとって、この言葉は常に背中に付き纏う厄介なもので、入部以来1度も勝てていなかった自分たちにとって、連敗という言葉が、4年間で1度も勝てないのではないかという不安が、学年が上がるにつれてより重くのしかかるようになってきたのでした。

そして3年生の秋、ついに1度も勝ちを経験しないまま最高学年を迎えてしまいました。4年間で1度も勝てなかったら、自分たちの努力はすべて否定されてしまうのだろう……そんな恐怖に打ち勝つために、必死で練習に取り組みました。迫りくる恐怖の一方、練習では確かな手応えを感じており、勝てるかもしれないという期待を持って春のオープン戦に臨みました。しかし思いとは裏腹に全く結果は出ず、焦りから野球人生で1番と言って良いほどの不調に陥りました。希望を失い、自分の存在意義や負け続ける東大野球部が戦う意味が分からなくなってしまいました。野球を続けるか、辞めて就職するかをも迷っていた時期でもあり、ある有名人が言った「好きなことではなく勝てることで勝負せよ」という言葉が頭をよぎりました。これだけ努力してもどうにもならないのなら、野球は得意な人に任せて下手な自分はさっさと辞めてしまった方が良いのかもしれない……そんな複雑な思いを抱えたまま練習に臨んでいました。

立ち直るきっかけはベンチを外れたことでした。スタンドから見た、仲間の戦う姿は本当に格好良く、そんな必死な彼らに自分ができることはただ祈ることだけであるというやるせなさから、居てもたってもいられなくなりました。結果ばかりを気にして忘れかけていた、試合に出て活躍したいという純粋な思いを仲間が思い出させてくれたのです。そこから徐々に調子は上向き、自信を少しずつ取り戻しました。そして4カード目を終えた時、法政戦の先発を命じられました。何としてでも自分が連敗を止めてやるという思いと、一方で試合を壊してしまったらどうしようという不安の板挟みになりながら、それでも必死に準備をしました。第1戦は善戦しながらも粘りきれず敗戦。残るは第2戦1試合のみになりました。アンビバレントな思いに胸がはちきれそうなまま、5月23日当日を迎えました。試合開始。試合に入ると不思議と不安は消え、目の前のバッターに全力で立ち向かって行きました。死力を尽くして0を並べましたが、5回までしか投げることができず、緊迫した状況を後輩に任せてしまいました。あと4回。幾度となく勝利を目前に手放してきた僕たちにとって、全く気が抜けない状況であることは誰もが知っています。西山(投手/3年)が流れを渡さない投球で抑えてくれました。あと2回。祈るような思いでベンチから声を出し続けました。後をつないだ井澤(投手/3年)も8回を抑えてくれました。あと1回。時間がゆっくりと過ぎていったのをよく覚えています。あと1アウト。最後のバッターを打ち取ったとき、どっと肩の荷が降りたような感覚がして、自然と涙が溢れてきました。勝った――ついに勝つことができたのです。絵空事のような現実がそこにありました。今までの努力も、苦悩も、葛藤も、すべてこの日のためにあったのだろう……そう思うとこれまでの辛いことの多かった野球人生が全て報われるような気がして、天にも登るような思いでした。4年間でたった1勝しかできていない、それがどれほど惨めなことかは重々承知していますが、それでも、この1勝は自分たちをこれからもずっと奮い立たせてくれる勝利となったのです。

4年間を通して、東大野球部が戦う意義をずっと問い続けてきました。入部のきっかけは文武両道が格好良いという漠然としたイメージでした。初めての勝利から3ヶ月余りが経ち、ラストシーズンを目前にひかえた今、東大野球部が戦うことの意義は文武両道ではないと感じています。僕たちが戦う意義とは、自分たちの可能性を信じて疑わない姿勢を見せ続けることだと思います。人間誰しも子供の頃は夢を持っています。それが歳を取るにつれていつしか現実を無視できなくなり、もののわかった振りをして自分の可能性に蓋をしてしまいます。それが大人になるということなのかも知れません。しかし僕にはそれがとても寂しいことのように思えます。いつになっても、いかなる状況に置かれても、自らの可能性を信じ続けたい、僕はそう思います。そして東大野球部の人間はどんなにチームの連敗が続いても、自分の実力不足を嫌というほど思い知らされても、決して希望を失わず、いつか勝てると信じて毎日努力を続けています。自分の可能性を信じ、――それがたった一筋の光だとしても――希望を持ち続ける、その姿勢こそが僕たちが戦う意義であると感じています。東大野球部の仲間は、クールに振る舞っていても心に熱いものを持つ奴ばかりです。僕はこんなチームメイトに囲まれて4年間野球ができたことを本当に誇りに思います。いよいよ始まるラストシーズン、自分たちの可能性を信じて戦い続け、応援してくださる方に希望を与えたいと思います。

最後に、ここまで何不自由無く野球に集中できる環境で育ててくれた両親、結果が出ない中でも信じて使ってくださった首脳陣の方々、体のケアやトレーニングをご指導してくださったトレーナーの方々、未熟な自分を受け入れてくださった先輩、頼りない自分についてきてくれた同期や後輩、その他沢山の方々の支えがあって僕の野球人生は成り立っています。誰1人として欠くことのできない存在です。本当にありがとうございました。そして勝利を以て恩返しをさせていただきたいと思います。

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次回は9/20(月)、小宗投手を予定しております。
お楽しみに!