『僕の野球人生』第21回 中嶋理沙マネージャー
『僕の野球人生』第21回
私の野球人生はたったの3年半です。しかもその大半はパソコンに向かっていたことを思えば野球人生と呼んでよいものかわかりませんが、大好きな野球にかかわれる喜びを存分に味わい尽くした時間でした。
小中高の12年間を女子校で過ごし、野球とのかかわりはほぼありませんでした。それでも高校の時には放課後に東京ドームに駆け込み、プロ野球に夢中になっていました。
最後まで何が起こるかわからないところ、チームのために1人1人が役割を果たすところ、野球のそんなところに魅力を感じたように思います。応援している広島カープは、ファンという立場でもチームの一員でいられるような雰囲気が好きでした。
大学で野球部に入ろうとは特に考えていなかったのですが、神宮で一度観た試合の熱気に惹かれ、入部を決めました。
入ってすぐ、野球が大好きな選手たちが懸命に練習に励む姿を目の当たりにし、その熱量に圧倒されました。さらに、マネージャーの先輩方の頼もしい姿を見て、2年後、3年後に自分がそのようになれているイメージは到底湧きませんでした。当時は先輩に言われたことを受け身にこなし、漫然と過ごしていたように思います。ミスが怖くてできるだけ仕事をしたくないとまで思うこともありました。
1年の秋、選手から男子マネージャーを選出するため、学年での話し合いが行われました。最初はマネージャーの仲間が増えることに楽しみな気持ちすらありました。しかし、そこで吐露される同期1人1人の野球に対する思いを聞くにつれ、それまでの自分の取り組みの甘さを痛感しました。話し合いを進めるうちに重たい空気が立ち込め、黙って聞いていたものの内心は苦しかったです。
もっと仕事に誇りを持って取り組めていれば。ただ1人のマネージャーとしてもっとやりがいを伝えることができていれば。同期もマネージャー決めを少しは肯定的に捉えてくれたかもしれない。さらに言えば、私がもっとしっかりしていれば、もしかしたら男子マネージャーを選ぶ必要すらなかったのかもしれない。結果的に守上(マネージャー/4年)と吉田(マネージャー/4年)がマネージャーになる決断を下してくれ、負の感情は多少抑まったように思いますが、何となく罪悪感のようなものが残りました。決断した2人はもちろん、自分の思いを語った同期全員を尊敬します。
これを機に今までの姿勢を省みました。自分のやっていることはチームにも対外的にも大した影響を与えないという思い込みがあり、それが受動的になっていた要因でした。でもよく考えれば、非常にもったいない考え方です。これほど恵まれた環境で、尊敬できる人達が集まる組織で、一途な挑戦を間近で見られる貴重な空間において、微力ながらも仕事ができるというのはこの上なく幸せなことです。そう考えるうちに、少しずつですが、やりがいを見出せず消極的だったマインドが自分の中で変わっていくのを感じました。
そして東大野球部は、私がかつて野球というスポーツそのものに感じた魅力を組織として体現している集団であるということに気づかされました。ここでは、1人1人が持っているものを惜しみなく出し尽くしています。マネージャーは勝敗に直接かかわることはありません。確かにそうですが、だからといって勝つための仕事ができないというわけではないと思います。
言うまでもなく、最大の目標は勝つことです。自分を犠牲にして進塁打を打つ選手がいたり、1打席に、守備・走塁に懸ける選手がいたりして全員野球で勝利を掴み取るように、マネージャーという役割もその1ピースになれると信じています。プレーはできなくとも、ほんの小さなことしかできなくとも、心を込めて取り組んで私なりに勝利に貢献する。チームのために自分ができる貢献を考えひたむきに実践する部員の姿を見て、心からそう思ってます。
この3年半、上手くいったことも少しはあったと思いますが、むしろ失敗したことや迷惑をかけてしまったことの方が深く心に刻まれているように思えます。それでも振り返ると、この場所でしか得られなかった数々の濃密な体験があります。
何度やっても緊張する神宮での場内アナウンス。パンフレットや広報用画像のデザイン。1通のメールを送るのに何時間も文面を考えたり、ご寄付を増やす方法を考え試行錯誤したり。4年春の法政戦での初勝利は一生の宝物です。カメラを握る手が震えました。今までに見たことのないようなキラキラとした表情を写真に収め、幸せを噛み締めました。
そしてこの場所でしか得られなかった人との繋がりを実感しています。入部前は想像もつかなかったほどに、多岐にわたる方々とかかわり支えていただきました。形は違えど、かかわってくださった全員が東大野球部の一員です。
部のことを本気で考え助言してくださるOBの方々。ご寄付やメッセージ・お手紙などにより励ましてくださるファンの方々。どんなに苦しい展開でも毎試合変わらぬ声援を送ってくださる応援部の方々。コロナ禍でも一緒に盛り上げようと協力してくれた他の運動部の方々。あげればきりがありません。
そうした全ての方々に感謝の気持ちを持って勝ちを届けたいと思っています。そしてチームの力を見せたい。首脳陣も選手も学生コーチもマネージャーも、皆が持てる力を結集して大輪の花を咲かせられるということを証明します。
それぞれが、それぞれのポジションで全力を尽くして、最終カード勝ちます。
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次回は10/13(水)、守上マネージャーを予定しております。
お楽しみに!