『僕の野球人生』第26回 増田萌衣マネージャー
『僕の野球人生』第26回
マネージャーとしての野球人生を振り返ってみると、この4年間はかけがえのない様々な出会いの連続だったような気がします。
中高6年間テニスに打ち込んでいた私は、高校3年生の夏に妹が出場するソフトボールの大会を大阪へ観に行って、チームスポーツってなんか良いなと思いました。1人1人役割があって、それぞれ最大限のパフォーマンスを出そうと自分の役割に集中しつつ、仲間と同じ目標に向かって励まし合う、そんな空気感が個人競技と違って良いなと思いました。
そんなソフトボールの大会を観た帰りに、たまたま高校野球が開催されている甲子園に初めて寄りました。
それが私の野球人生が始まるきっかけとなった出来事です。
同年代の人達が夢に向かって皆で頑張っている姿に圧倒されました。今までの人生どれだけ野球に捧げてきたんだろう…考えただけで泣きたくなるくらいすごい努力だと思いました。
夢を追いかけて頑張る人たちはこんなにもかっこ良く、こんなにも応援されるんだと知り、努力が報われた時はあんなにも良い笑顔をするんだと思って心が震えました。
私はそれまで「努力」という言葉がなんとなく堅苦しく感じてあまり好きではなかったのですが、この時、誰かの努力は人を感動させる力があることを知りました。
受験生として明確な目標も無く過ごしていた私にとっては十分すぎる刺激でした。
アルプススタンドの一体感や球場全体の高揚感にも魅了され、ブラスバンドをたくさん聞くようになった私は、その流れで東京六大学野球というものがあることを知ります。
その中でも『不死鳥の如く』が大好きになり、この曲が流れる空間に自分もいたいと思うようになりました。
漠然とふんわりした憧れを抱いていた私ですが、「マネージャー」として関わりたいと思ったきっかけは、浪人生の春に観た早慶戦です。
コロナも無く、応援席は凄まじい盛り上がりでした。熱狂に包まれる球場の中で、私はこの舞台をもっと近くで観たい、もっと内側から知りたいと思うようになりました。どういう人達が裏側で関わっているのだろう、この場内アナウンスは誰ができるんだろう、、、
良いドラマや映画に出会ったとき、その舞台裏を知りたくなるような気持ちと同じです。
もともと文化祭とか運動会といったイベントが好きだったので、運営ができるマネージャーは自分にぴったりではないかと思いました。
受験が終わり、春休み中の3月に東大野球部の見学に行きます。
球場の入口が分からずウロウロしているとユニフォームを着た先輩らしき人がいたので声をかけてみました。そしたら「1年生?俺も1年だよ」みたいなことを言われ、びっくりしました。え、なんで1年生…?もう練習してるの?と不思議でした。入学手続きもする前です。なんだかすごいところに来たんだなと思ったことを覚えています。
あとから話を聞いてみると他にも合格発表日から球場へ直行している人が何人もいたそうで、それだけ多くの人が本気で目指してやってくる場所なのだと知りました。
見学早々、衝撃を受けた私でしたが、当日行われていたオープン戦を見て、東大野球部の魅力を知りました。大きくリードされて負けていたものの、後半にすごい勢いで反撃を開始し、東大野球部はこんなに負けていても最後まで一切諦めないチームなんだと。
マネージャーの先輩方も、何も知らない私を温かく迎えてくださり、その時点で入部しようと決めました。
と言いたいところですが、野球界もマネージャーも経験したことのない私は、他の選択肢を見ないで決めてしまうことに不安がありました。
そんな時に、アメフト部Warriorsのスタッフの先輩方が校内を歩いている私に勧誘の声をかけてくださいました。
ほぼ野球部に決めているんですけど、、、と言う私にも、運動会スタッフの先輩として、親身に相談に乗ってくださりました。
たくさんお話しする中で印象的だった言葉は、
「スタッフっていう立場にいる人はみんな、いつかどこかのタイミングで悩むことがあると思う。私も、こんなことをして私にとって何になるんだろうと悩んでいる時があった。でもそこで、私「に」とって何になるかじゃなくて、私「が」できることは何だろう、と考え方を変えるようになって、気持ちが前向きになった。」
という言葉です。
当時の私は「そうなのか…」といまいちピンとこないまま美味しいケーキをご馳走になっていましたが、実際この4年間、この言葉を何度も思い出し、何度も救われました。
この時の先輩方にはもう会えないけど、心の中で本当に感謝しています。
その後、心を決めて野球部に入部してからの日々は、本当に楽しく充実した毎日でした。
初めて神宮球場で『不死鳥の如く』を聞いた時はウルっときました。応援してくださる方がたくさんいることに驚き、感動の連続でした。
優しい先輩方と明るい同期に囲まれて、日々のどんな小さな仕事でも楽しく、幸せだなと感じながら過ごしていました。一からたくさんのことを教えてくださった先輩方には感謝の気持ちでいっぱいです。
マネージャーとしてたくさんの「初めて」を経験する中で、成長したなと思うポイントがいくつもあります。
1年生の秋、静岡で行われたオータムフレッシュリーグに帯同させていただきました。
この大会は各大学の企画チームによって運営されていて、先輩だらけの環境に飛び込むことに緊張感でいっぱいでした。
大会中、私は東大の1試合でアナウンスをさせていただく予定でしたが、前日に急遽運営の人手不足により、別の球場で他大学のアナウンスをすることが決まりました。本当に仕方のない状況でした。
1日に3試合、1人でずっとアナウンスをしました。
孤独を感じ、なんてブラックなんだ!と思う気持ちと、1人で3試合なんて贅沢だな、ラッキーと思う気持ちが半々でした。(…前者の方が大きかったです(笑))
それでも最後の試合後、出場した選手達がアナウンス室のほうにまで礼をしてくれたことが印象に残っています。頑張って良かったと思う瞬間でした。
さらに、試合後の夕方、1人電車で移動しようとしていたところ、静岡大学のマネージャーさんが「東大が試合してる会場まで車で送っていくよ」と言ってくださいました。
人手不足で運営していて忙しいだろうに、ほぼ初対面の1年生である私を気遣って、遠くまで運転してくれるなんて、なんて優しいのだろう。疲れと感動で泣きそうでした。
その道中に感じた温かさは今もずっと心に残っています。
自分の状況ばかりに意識が向いて、疲れたーと思っていた自分がすごく子どものようで恥ずかしかったです。
私も周りの状況を見て、初対面の後輩にもここまで優しくできるような、器の大きいマネージャーになりたいと心から思いました。
マネージャーの仕事はできるのが当たり前で、ミスをすれば目立つがミスをしなければ知られることも少ない。このような言葉はマネージャーの話になるとよく聞く言葉です。
たしかにその通りです。
普段は小さな目立たない仕事が多いです。でもそこには大きな責任が伴います。
下級生の頃、部内の取材対応をした際に、相手の新聞社の方から「増田マネージャーのおかげです、ありがとうございました」というような直筆のお手紙をいただきました。
マネージャーをしていると取材対応というのは日常的な仕事のほんの1つでしかなく、取材対応をミスすることなんてないし、できて当たり前だという認識でいました。しかし、このお手紙をいただいて、私は自分のしている小さなことが、誰かにとっては大きな仕事に繋がっていることを実感しました。責任の大きさを感じて身が引き締まりました。
マネージャーとして当たり前のことをしただけですが、あのようなお手紙をいただけて嬉しかったです。
だからもし、今自分のしていることに何か意味があるのだろうか、と悩んでいる人がいたら、その先に繋がっている人のことを想像して、自分のしている小さなことにも自信を持ってほしいなと思います。
私はとにかく野球に関わりたい、あの空間を内側で感じたいという思いで入部したので、よく聞くような「勝利に貢献したい」というような強い思いは持っていませんでした。というより、何もかも初心者の私にとってそんな大きなことはできないと思っていました。
そのおかげか、マネージャーは試合に出ないし何ができるんだろう、みたいなことで悩むことはなく、とにかく楽しい、幸せだな、もっと東大野球部のことを多くの方に知ってもらいたい、そんな気持ちでずっと活動してきました。
だから下級生の頃から、負け続けていても東大野球部のことが大好きで、本当に強いチームだと思っています。毎試合毎試合、誰々がヒット打った!抑えた!守備すごかった!惜しかったけど良い試合だった!など、プラスの感情ばかり抱いて、神宮に行くのが毎週楽しかったです。毎日一生懸命頑張っている偉大な先輩たちを前にして、自分が悔しいと感じることはおこがましいとも思っていました。
だけどやっぱり3年生の春に初めてリーグ戦で勝った時の空気は忘れられません。ああこの勝利のために選手達は頑張っているんだなと肌で感じました。
勝利した日はもちろん印象深いのですが、私はその前日も同じくらい記憶に残っています。
5月22日の法政大学1回戦。途中までリードして今日こそ勝てそうって思っていたのに、終わってみたらいつもと同じ敗戦。そのシーズンは様々な変革が成功して勝てそうな試合が多かっただけに、初めて「どうして勝てないんだろう???」という思いが湧きました。東大の選手達も本当に強くて、毎日工夫しながらたくさん練習して、たくさん分析もして、スタッフも含めて皆本気で、私から見たら他大学と互角なくらい強いのに、、、
やっと心から悔しさを感じました。それまでは勝利のために頑張っている先輩・同期たちをすごいなーと思いつつ、外から追いかけているような気持ちでいたのかもしれません。
その日の試合後、球場に戻ると、いつも強気な選手が「もうだめだ」と呻いていました。本当にびっくりしました。球場の空気も暗かったです。少し悲しくなりました。
おのゆか(小野/4年/マネージャー)と2人で「本当にどうして勝てないんだろうね…」と話したことも覚えています。そんな会話をしたのは初めてだった気がします。
だからこそ、その次の日に勝てたことは本当に嬉しくて、ほっとしました。部の一員として嬉しい気持ちと、一歩引いた視点で選手達の頑張りが認めてもらえた気がしてほっとした気持ちがありました。おのゆかが泣いているのを見て、私も泣きそうになりました。
また、たくさんの方に「おめでとう」と言っていただき、東大野球部は本当に多くの方に応援されて、支えられているのだと感じました。
それ以降、私のマネージャーとしての意識も少し変わったように思います。
グラウンド上で勝利に直接かかわることはなくても、自分にできることはまだまだたくさんあるはずで、それを1つずつ丁寧にこなそうと思うようになりました。
東大野球部のすごいところは、前日にどんなに負けても、次の日には「今日は勝てる!」と思わせてくれる力があるところです。部員として当たり前なのかもしれませんが、私はこの4年間、「今日は負けそう…」と思ったことがありません。リーグ戦がある日は毎日、今日は勝てそう!と思って神宮へ向かっています。
それは、選手もスタッフも皆本気で勝利を目指して頑張っているからだと思います。
東大野球部に入って、努力を努力とも思わないで毎日朝から晩まで頑張っている人がいることを知りました。様々な思いを抱えながらも、野球と真摯に向き合っているこのチームの皆を尊敬しています。
また、ただ勝利を追い求めるだけでなく、チーム全員がその勝利を喜べるように尽力してくれている仲間に、心から感謝しています。「試合に出る選手、出ない選手、学生コーチ、マネージャー、アナリスト、関わる全員が勝利を喜べるチームを作りたい」、「応援してくれる人達に誠実でありたい」などなど、同期たちの頼もしい言葉が心に深く残っています。たまにちょっと勇気を出して自分の考えを本気で話してみても笑われることなんてなく、それどころかもっと本気の考えが返ってくる。そんな環境にいることができて幸せでした。
尊敬できるチームメイトと出会えたことがこの4年間で1番の宝物です。いつも本当にありがとう。
そして、こんなに楽しいと思えるマネ部屋を作ってくれた後輩たちには感謝しかありません。私がポロっと口にした願望を実現するべく素早く動き出してくれたり、私が見落としている細かいところに気を配ってくれたり、そんな後輩たちの存在が無ければ私はこのチームで何も成し得ることができなかったと思います。
上級生として、私ができることはなんだろうと考えた時に、それは「自分と全く同じ悩みで後輩が悩まないようにすること」だと思いました。どれだけ実現できているのか分からないですが… Warriorsの先輩方にいただいた言葉のように、過去の誰かが悩んだ経験は、あとに続く誰かの心を救ってくれるものになると思います。その積み重ねでどんどん組織が良くなってくれたらいいなと感じる毎日です。
マネージャーの皆はもちろん、日々難しい技術を用いて分析に勤しむアナリスト、朝から晩までグラウンドで活動し疲れ切ってマネ部屋の床で爆睡してしまう学生コーチ、そんなスタッフの皆が集まるマネ部屋という空間が愛おしくて大好きです。
そして何より、平祐(田中/4年/マネージャー)とおのゆかと一緒にマネージャーができて、本当に幸せでした。誰よりも優しい心でチームと連盟を引っ張ってくれた平祐、誰よりも野球部を愛して一緒にたくさん笑ってくれたおのゆか。
こんなに幸せな環境でマネージャーとして最後の1年を送らせてくれて、皆本当にありがとう。
それから、六大学の優しくて面白いマネージャーの皆さんと一緒に活動できたことが、私はとても楽しかったです。
日本中どこの大学でも、マネージャーやスタッフの皆は本当にすごいことをしていると思っています。選手と違ってスタッフは様々なバックグラウンドを抱える人が集まっています。そんな中で誰よりもチームの勝利を願い、広い視野を持ちながら1つ1つ小さなことに取り組んでいるスタッフの皆さんを尊敬しています。
私を大きく成長させてくださった六大学の先輩方、本当にありがとうございました。
チームをまとめる立場として、日々膨大な仕事に追われながらも一切のストレスを見せず笑顔で接してくれる4年生の皆、優しさに溢れている可愛い後輩たち、皆にいつも元気をもらっています。本当にありがとう。
あとはここで同クラの皆にも感謝を伝えたいです。野球に本気で向き合っている宮﨑外野手(4年)と綱嶋投手(4年)にはいつも刺激をもらっていますし、応援部の責任ある立場で頑張っているみなみ(杉田主将)としゅうちゃん(仙田主務)にはいつもパワーをもらっています。4人の頑張る姿を見て、私も頑張ろうと思えました。ありがとう。
また、野球部は学生だけでは決して成り立たない組織です。井手監督、大久保助監督、鈴木部長を始め、野球部のために尽力してくださっているOBOGの皆様、六大学関係者の皆様、関わってくださるすべての方に感謝申し上げます。
そして東大野球部を応援してくださる皆様の力に支えられてここまでマネージャーを頑張ることができました。毎試合熱いご声援をくださり、本当にありがとうございます。
これからの東大野球部もよろしくお願いいたします。
最後に、私の夢をいつも応援してくれて、背中を押してくれる両親に感謝を伝えたいです。いつも神宮球場に応援に来てくれて本当にありがとう。私を野球と出会わせてくれて、「野球部のマネージャー」の先輩として細かいルールとか野球界のこととかを色々教えてくれた妹にも感謝しています。ありがとう。
短い野球人生の割に文章が長くなってしまいました。
たくさんの出会いに恵まれ、あの時、野球部のマネージャーという道を選んで本当に良かったなと思っています。過去の自分にナイスと言いたいです。
ここまでお読みくださり、本当にありがとうございました。
神宮球場で『不死鳥の如く』と『ただひとつ』が流れるあの空間が、私は大好きです。
法政戦で勝ち点を取って、選手達の最高の笑顔を皆さんにお届けしたいと思います。
チーム全員で頑張ります!最後まで熱いご声援のほどよろしくお願いいたします。
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次回は10/15(土)、奥田学生コーチを予定しております。
お楽しみに!