『僕の野球人生』第17回 田中弘毅学生コーチ
『僕の野球人生』第17回
幼少期に父に連れ出されキャッチボールや羽打ちをしたのが僕の最初の野球の記憶です。
小学校に上がってすぐに、父に連れられて少年野球チームに入りました。この頃は野球がとにかく楽しく、暇さえあれば学校の校庭や公園で壁当てをしていました。サードをやっていましたが、阪神の藤川球児投手のストレートで真っ向勝負するピッチングを見て、ピッチャーへの憧れを持つようになりました。
中学の軟式野球部では念願叶って投手を任せてもらう事が増えました。調子が滅茶苦茶良い時にだけ味わえる、自分の思い描いた通りに相手を打ち取れる感覚は最高でした。チームは地区の中ではまあまあ強い方で、良くも悪くも楽しく野球をやった3年間でした。
高校時代は下級生の頃から試合に出るチャンスを何度も貰いましたが、結果が伴わず苦しい日々でした。結局チームとしては公式戦で一勝もできず、自分自身も3年春にフォームを崩してピッチャーをクビに。急造捕手として出た最後の夏は、7点差をひっくり返される大逆転負けで初戦敗退に終わりました。こんな形で野球を終われない、そしてピッチャーとしてまだ成長できるはず。その一心で東大でも野球をやる事を決めました。
無事東大野球部に入部したものの、自分の実力不足は明らかでした。えげつないボールを投げる宮台さん(H30卒)、柴田さん(H30卒)、貴介さん(濵﨑貴介/R2卒)。そんな先輩方でも打ち込まれるリーグ戦に自分が出場できるビジョンは全く立ちませんでした。そもそも同期のピッチャー内でも劣っていた自分はOP戦で投げる機会も殆ど無く、たまに登板してはパッとしない投球をしていました。何とか他人には無い武器を作ろうと1年の終わりにアンダースローに転向しましたが、結果的に輪をかけてコントロールが悪くなり、ブルペンに入れば隣のレーンのキャッチャーに当たりそうなくらいボールが抜けてしまう始末。普通にボールを投げるという野球選手として当たり前の動作すら覚束なくなり、同期がリーグ戦のベンチ入りをかけて競争している中、小学生みたいなレベルで四苦八苦している自分が本当に恥ずかしく、情けなかったです。
こんな調子で試合に出られる訳もなく、2年秋に学生コーチに転身する事になり、選手としての僕の野球人生は終わりました。
もちろん選手として何も爪痕を残せなかった事は悔しかった。一方で、結果が出ない事に向き合う日々が終わり、チームにいる理由ができる事にどこか安堵している自分もいることに気づき、がっかりしました。本当に真剣に自分と向き合った人は、そんな事は思わない。結局自分の取り組みが甘かったのだと思いました。
高校野球も、大学野球も、選手として中途半端なままで終わってしまった。学生コーチとして東大野球部の勝利に貢献する事は自分にとって野球に真剣に向き合う最後のチャンスだと思い、学生コーチとして第2の野球人生をスタートしました。
3年生の1年間は、自分の力不足を痛感する日々でした。コーチという肩書に見合った働きができているのか。選手全員が正当な評価を受けられるような環境を作れているのか。チームを俯瞰して見るべき立場にありながら、自分の視野の狭さに不甲斐なさを感じました。辻村さん(R2卒)、岡本さん(R2卒)の仕事ぶりを見て、来年自分に同じ立場が務まるのか、不安で仕方ありませんでした。そんな中でも、自分が練習に付き合った選手が、試合で結果を出し、成長した姿を見せてくれる事は自分の事のように嬉しかった。特にフレッシュリーグ法政戦で勝利した時は、辞めなくて良かったと初めて思いました。
今年のスローガンは「挑戦」ですが、僕はもう一つの候補だった「真摯」という言葉を胸に最上級生としての1年を過ごしてきました。不器用な自分は、目の前の事に一つ一つ真摯に取り組む事でしかチーム貢献できないと思ったからです。
振り返れば、改善できた点はいくつもありますが、その時々で自分なりに野球に、チームに真摯に向き合う事は続けてこられたかなと思います。
ここまで学生コーチを続けてこられたのは、自分よりも遥かに真摯に野球に向き合ってきた選手のおかげです。中々勝てないなかで、無力感からもう辞めてしまおうかと思った事は何度もあります。そのたびに、途方も無い努力を淡々と積み重ねる選手の姿を見て、明日も頑張ろうと思えました。そんな選手達をとても尊敬していますし、東大野球部は良いチームだな、と思います。
だからこそ、このチームで勝って、最高の景色を見たい。
残り1カード、まだまだこのチームは強くなれると思います。戦いが終わる最後の瞬間まで、自分にできる事に真摯に取り組みます。
こうして野球人生を振り返るにあたり、これまでお世話になった様々な人たちに改めて感謝の気持ちでいっぱいです。
皆の思いに結果で応えようと、日々努力を積み重ねる選手。
ここまで一緒にやってきたチーム2020の学生コーチ。(なかでも加見(学生コーチ/4年)にはいつも助けてもらいました、ありがとう)
裏方に徹してサポートしてくれるマネージャー。
井手監督、大久保助監督を始めこれまで関わった全ての指導者の方。
日頃から応援してくださる応援部やファン、OBの方々。
大変な状況の中でリーグ戦を運営してくださる方々。
何かと気にかけてくれる友人。(特に開成野球部の同期。また飲みに行こう)
そして野球との出会いを与えてくれて、ここまで支えてくれた家族。
他にも書ききれない程たくさんの方に支えられて、ここまで野球を続ける事ができました。野球を通して得た出会い、学びは僕の一生の財産です。
本当にありがとうございました。
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次回は10/26(月)、和気学生コーチを予定しております。
お楽しみに!