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『僕の野球人生』第18回 辻真次郎外野手

『僕の野球人生』第18回

辻 真次郎 外野手(4年/開成)

辻① 辻②

「大学の4年はあっという間」
東大野球部に入る旨をお伝えした高校のコーチとお話したときに出てきた言葉です。
何かの始まりにはよく聞く言い回し、高校の3年も短かったからそうなんだろうなくらいに思った一方で、どこか恐怖を覚え頭に残った言葉。
そしてその4年が終わろうとしている今、あまりの早さに表現が見つかりません。
僕はどこへ行くのにも阪神の帽子を欠かさない野球少年でした。
どうしても野球をやりたいと言って始めさせてもらった少年野球では温かい環境で楽しく野球をさせてもらいました。

中学の野球部では試合には出させてもらっていたものの、楽しいだけではない野球、勝つことの難しさを徐々に学んでいった期間でした。

高校では1年生ながら沢山の試合に出させてもらえました。最初だけは上手くいっていたように見えましたが、その後は三振、エラー、あり得ないミスの山。出場機会は減り、怪我も度重なりました。公式戦ではほとんど勝てず、勝った試合はほぼ出番なし。
悔しさしかありませんでした。

「このまま終わりたくない。高いレベルの野球に挑戦したい。」

確かにその思いが強くあった一方で、自分のあまりの下手さ加減から最後までやり抜き通せる自信も、情けないことにありませんでした。

「厳しいだろうけどまずは挑戦してみよう。ダメそうならその時考えよう。」

そんな考えでの東大野球部への入部でした。

いざ入部すると早々にチームのレベルに圧倒され、それでも尚リーグ戦で勝てない現実に元から分かっていてもたじろぎました。
そして同期がリーグ戦やフレッシュリーグに出場していく中、僕自身はオープン戦もほぼ出場機会なく1年生の秋が終わりました。

男子マネージャーが不在であった自分たちの学年は、秋までに選手の誰かが転向しなければなりませんでした。
その中で決断してくれた吉田(マネージャー/4年)と守上(マネージャー/4年)への深い感謝の念を抱くと共に、自分なら同じ決断を出来たかに全く自信がなかった自分の姿勢の不誠実さを感じ、チームのために貢献することが最優先だと痛感しました。
しかしどう貢献していくのか、その点で大きく迷いました。

「下手な自分が選手としてやっていこうとするのは違うのではないか。」
「選手としてやれるところまで挑戦したい。その思いを持つことは間違っていないはずだ。」

そんな考えを巡らすうちに膨れに膨れ上がってグシャグシャなりました。同期に話を聞いてもらい、春のフレッシュまで無心に取り組んでから自分を判断することにしました。

迎えた冬、何とか勝負できるものをつくろうと元から体格のあった僕は沢山の練習、特に打撃練習やトレーニングを積みました。そうして挑んだ2年生春のフレッシュではミスもありましたが長打を打つことができ、ある程度の結果を出すことができました。神宮での勝利も経験して非常に嬉しく、短絡的なことに一転して選手としての自信がついたように思います。
その後合宿に行けることになり、寮に入れることになり、リーグ戦の出場に着実に近づいていると思いました。

しかしそんな見積もりは甘いもので、結局秋のフレッシュトーナメントは1打席のみで三振。オータムフレッシュで少し弾みが着いたかと思えばそんな事もなく、自粛期間もありながら足掻いている内に時間が過ぎていきました。
あれだけ悩んだチームへの貢献という思いは、試合に出たい出たいという思いへといつの間にか傾いていき、それが叶わないことへの焦りや悔しさ、劣等感で感情の整理がつかないまま3年生が終わりました。

新チームになると4年生のミーティングが行われます。初勝利に向けて何度も繰り返したミーティングの中で、同期のみんなの最終年への思いに触れました。そこで特に強く心に残った言葉があります。

「今までずっと負けてきた訳だから、出てた人は偉いのではなく寧ろチームの足を引っ張ってきた。
みんな次が勝負だから、今までのプレーは関係ない。出てない人も劣等感を感じる必要なく、みんながプレーに向き合って言いたいことを言い合っていこう。」

自分のことに意識が向いていた僕はハッとさせられました。
チームがリーグ戦で勝つ、そのためのプレーを、出来ることを淡々と追い求めていく。
今更あまりに当たり前のことだけど、そこをどんな時でもぶらさない1年にしようと思いました。

それを機にそれまでのがむしゃらだった練習を冷静に見直し、周りからの助言を請いながら取り組むようになりました。少しずつ良くなってきてると日々の練習で感じる一方で結果は出ず春のリーグ戦もベンチ外で開幕しました。
春の終わりには潮時かもしれない。そう考えだしたところ、対立教1回戦で初めてベンチ入りすることになりました。素直に嬉しく、この機会を掴むしかないと意気込んでいったのものの同点の場面で呆気なく三球三振。次の守りで勝ち越されて敗戦、自分自身は以降またベンチを外れました。

同点の試合展開で何もできなかったこと、そしてまた自分は必要ないこと、そのどちらも重くのしかかりました。
その思いを抱えたまま迎えた春の最終戦。入部以来初めての勝利を僕は制服で眺めていました。

この上なく、嬉しかった。

いや、もはや嬉しいのかどうかも分からないほどの感情で涙が溢れました。勝利の瞬間にグラウンドにいない無念さや悔しさを凌駕するものが、そこにはありました。プレーで貢献しようとしてる選手の身としてはもう少し悔しさを持つべきだったかもしれませんが、それが僕の本心でした。

勝利の価値を体感した僕は、勝利への思いの根本が「見返したい、報われたい」から「喜びたい」に質が変わっていき、それまでよりもより大きな推進力をもつようになっていったと感じます。
そして今度は自分がグラウンドで関わった勝利を収めたい、加速し続けるその気持ちをやはりラストシーズンにぶつけようと思い今秋に至ります。

思えばここまでの道のりで多くの方々に支えられ、沢山の巡り合わせでこうして野球ができています。
自分に目をかけてくださり、起用してくださった指導者の方々。怪我がちな自分の体をケアして下さったトレーナーの方々。どんな場面でも応援してくださる応援部の方々。様々な支援、応援をして下さるOBOGの方々、ファンの方々。勝つ事を求めて集まり競争し共闘したチームメイト。
そして両親。
単身赴任先から長い電車にのってわざわざ休日の少年野球に来てくれたことに始まり、野球に必要なもの必要なことを不自由なく支援してくれた父。僕が起きるずっと早くからお弁当を作ってくれ、食の要望にも快く応えてくれ、身近なところで支えてくれた母。
皆さんには本当に感謝の念に絶えません。ありがとうございました。
本当に正直なことを言えば、僕が今までこうして選手として歩んできたのが正しかったのか、このチームへのプラスになれているのかは分かりません。結局夏のオープン戦でも多くの出場機会を頂きながら、結果を出せず秋もベンチの外にいます。
チームに貢献したか。
貢献の方法は色々ありますし、どれも重要です。しかし選手である限り、この問いに対して、勝利に関わるプレーをすること以上に適切な落とし所はないように思えます。
であれば、自らのプレーで勝利に繋げることを目指し、そこにこだわり、全力で残りの試合に臨もうと思います。

 

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次回は10/8(金)、安田外野手を予定しております。

お楽しみに!