華やかな神宮の舞台で躍動する選手たち。慶早戦は超満員のスタンド。一つひとつのプレーに大歓声が起き、選手はこの歓声に押され最高のプレーを生み出す。しかし、一つのミスから連鎖を呼び、流れを止められず球場に飲み込まれることもあった。神宮はどんな景色だったのか、正直よく覚えていない。ただ、優勝を決めた時の大歓声やサヨナラ負けした時のどよめきは今でもはっきりと思いだせる。
華やかなこの舞台に至るまでの道のりは大変だ。部員は多く、グランドは1面。下級生に至っては早朝か暗闇の中での練習だ。ただし「考える野球」をテーマにしている慶應の選手は皆前向きだ。慶早戦の前になるとチームは緊張感で異様な空気に包まれた。グランドはファウルグランドに至るまで石ころ一つないほど完璧な整備が求められる。
練習中にボールが不規則に跳ねでもしたら大変なことになると皆が知っていた。ボールはいつも以上に磨かれ、年季の入ったヘルメットも光っている。特別な空気を感じたものだ。最高の舞台への準備、ここから「観察」「気づき」「相手の気持ちになる」は大変重要なことであると学んだ。野球は相手の気持ちを探る「心理戦」、これは社会においても生きてくる。
「舞台は役者でよしあしが決まる」というが、一番大切なのは主役を支える役者たちの存在。下級生やスタッフ、そして応援してくれた人たちだ。
2018年8月。私は社会人日本代表監督としてアジア大会に臨んだ。24年ぶりの金メダルを目指す戦いであったが、開催地インドネシアでは野球はマイナースポーツ。観戦する人々も初めて見る野球に複雑な表情。
そんな中で予選を戦ったが、決勝戦では多くの現地日本企業関係者で超満員の応援団。お蔭で選手たちは躍動し、全力プレーを魅せた。「ニッポン、ニッポン」の歓声。そして「ありがとう」の叫び。まさに神宮でのあの歓声が蘇った。
アジア大会で大応援団を組織してくれたのは、平成6年卒、西田君(三菱商事:インドネシア駐在)。神宮を知る頼もしき後輩に感謝である。