平成2年の春季リーグ戦の早慶戦は勝ち点を取った方が優勝という12年ぶりの早慶V決戦になりました。早稲田にとっては15シーズンぶり30回目の優勝を目指す早慶戦です。
1960年の伝説の早慶六連戦から30年を経て、早稲田は石井連蔵監督、慶應は前田祐吉監督が再び優勝をかけて戦うということもあり、テレビやスポーツ新聞でも大きく取り上げられて、神宮球場は3日間とも超満員になりました。
第1戦のプレイボールの審判の声とともにスタンドから「オオオーーーーー」という大歓声が沸き起こりました。先発マウンドに立っていた私の頭上から球場全体に包み込まれた大歓声が降ってくる感覚になりました。こんな感じは初めてだと思いながら、投じた1球目をライトスタンドに運ばれました。球場の雰囲気が一変しました。早稲田の1塁側は静まり返り、慶應の3塁側からはさらに大きい歓声が起こりました。慶應の声の風圧はマウンドに立っている私がぐらつくくらいすごかったです。
その後は落ち着きを取り戻し、4対3で完投勝利しました。2戦目は慶應が勝ち、3戦目の優勝決戦を迎え、私は再び先発としてマウンドに上がりました。
石井連蔵監督からは「早稲田のエースたるもの先発完投。途中で代えたりしない。マウンドで困った時は魂を投げよ。」と言われてきました。これまで先発した試合はすべて完投してきたのですが、この試合は7回表、3対3、ワンアウト満塁というピンチを背負い、力尽きました。代わった1年生の大越投手が見事に1球で5-2-3のダブルプレーに打ち取りピンチを脱してくれました。その勢いで早稲田は3点取り、6対3で勝って優勝しました。
超満員の神宮球場で早慶戦ができたこと、そして優勝できたことはとても良い思い出です。